医療法は、保険医療サービスの目標について規定している。その中でも特に強調されていることは、これまでの医療の担い手に過度に依存したパターナリズムの医療からの脱却であり、国民・患者自らが健康の保持・増進に参加する新しいサービスの追及である。そして、医療提供施設完結型の閉鎖的なサービス体系を改め、患者の「居宅」も医療提供の場に加えることによって、地域完結型の開放的なサービス体系の構築が求められたのである。こうした開放的な保険医療サービスの実現には、それぞれの医療提供者・医療施設の機能の明確化・文化と、効率的な連携が必要と述べている。 この目標を掲げるに至った要因としては、主に以下の2つがある。
①疾病構造の変化である。疾病構造は時代とともに変化し、以下の3つの相に分けることができる。第1相は、感染症である。この第1相の時代は、第二次世界大戦後の結核が猛威を振るっていた時代である。この時代は公衆衛生施策が主な社会対応システムであり、社会福祉専門職は、病院や地域で長期療養の生活支援を行っていた。医療ソーシャルワーカーは、経済面を中心に、家族面、仕事面、受け皿整備など、長期の療養に備えるため、受療環境の整備に院内から協力していることが多かった。しかしその人数も少なく、病院組織本体からは地域における患者の生活は見えにくかった。そして病院による保健医療サービスは、患者の生活、人生に対して配慮がなされないまま、社会福祉専門職の活動も限定的・特異的なものとなっていった。専門職同士の連携の程度も低く、個別の連絡が中心であった。
第2相は、慢性疾患である。この第2相の時代は、昭和30年代に入り、結核などの治療法が確立し、代わりに脳血管障害や精神疾患など慢性疾患や障害が主な治療対象となった時代である。第2相では、対応する社会システムとして医療保険制度が整備され、病院数・病床数が一挙に増加し、病院内。施設内で医療サービスを充実することに力が注がれた。当時の医療では、一施設で完結する治療を行うメディカルケアが中心であった。保健医療サービスは、キュアからケアへと医療理念の変更が唱えられ、リハビリテーションや透析、精神科医療などで、患者の生活、人生上の新しい視点や方法論による慢性疾患に対する治療が開発された。また、1人の患者に対して、治療を主な目的に院内多職種チームが組まれ、その人の退院とともに、「生活」を支える地域関係機関。地域多職種との連絡・連携が行われるようになった。
第3相では、高齢化が進み、高齢化社会を迎える時期である。さらに時代は平成に入り高齢社会を迎え、疾病構造も老人退行性疾患が主になってきた。老化によるADLの低下なども問題となった。そのため、医療サービスのみならず、地域生活支援のサービスも「メディカルケア」から「ヘルスケア」というように医療概念を拡大させ、包括的なサービスが行われるようになった。そのサービス内容も健康増進から予防、治療、リハビリテーション、在宅療養、介護、看取りまでをも含むものとなっている。多職種連携により、社会福祉士等の社会福祉専門職の活動と、その期待される役割内容も明確なものとなっていった。多職種連携の中で、社会福祉士としては、まず患者や家族のおかれている社会的環境にアセスメントし、自身が与える影響についてもアセスメントを行う。従来の保健医療サービスは、パターナリズムによって、自己決定権を奪いがちになっていた。そのため、患者がしたいこと話したいことを抑制していないかといったアセスメントが重要となる。そして、患者が権利を主張できるようにサポート、人権を擁護し、患者の権利を守る役割がある。
②医療法の改正である。わが国の医療供給体制の基本となる法律である医療法は昭和23年に施行されて以来、医療施設の基準などを定めることによりわが国の医療の確保に大きな役割を果たした。しかし、その後の高齢化や疾病構造の変化、医療技術の進歩などに対応する必要が生じ、以下のように改正が行われた。昭和60年の第一次医療法改正では、医療資源の地域的偏在の是正と医療施設の連携を目指し、都道府県医療計画の導入などが行われた。さらに昭和62年の国民医療総合対策本部中間報告を経て、21世紀の高齢社会に向けて国民の医療ニーズの高度化・多様化に対応し、患者の心身の状況に応じた良質な医療を効率的に提供する体制を確保することを目的とした第二次医療法改正が行われ、平成5年から施行された。その後、平成8年に医療審議会においてまとめられた意見具申で、要介護者の増大に対応するために介護基盤の整備を図るとともに、地域における医療需要に対応できるよう、医療機関の機能分担や業務の連携を明確にし、医療提供の促進等を図ることなどが指摘されたことを受け、9年に第三次医療法改正が行われ、10年に施行された。第三次医療法改正後、医療技術の進歩に伴う医療の高度化、専門分化に対応するとともに、医療に関する情報提供についての国民の受容に応じ、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を整備するため、医療審議会などで検討が行われ、これを受けて、平成12年に第四次医療法改正が行われ、13年に施行された。そして平成19年の第五次医療法改正では、「患者の視点に立った質が高く効率的な医療提供体制の構築」を基本理念とし、患者等への医療に関する情報提供の推進が行われた。これは患者の人権を尊重し、患者が医療情報を十分に得たうえで適切な医療を選択できるインフォームドコンセントの充実をはかるものである。
疾病構造の変化や医療法の改正により、利用者の支援は多職種との連携が重要であることが分かった。その中でも特に、医療と介護の関係はさまざまな場面において重要な役割を持つ。例えば、介護と医療の連携を1つとしてみても、要介護認定に「主治医意見書」が必要なことが示すように、介護において医療ニーズがない利用者は1人としていない。医療職と連携して利用者を支える意味は、そうした医療ニーズを持つ利用者に対して、介護関係者が医療面での配慮を欠いた介護で状態を悪化させたり、トラブルを引き起こさないためにも重要である。介護関係者は利用者に日常的に接する立場にある。介護関係者が気づいた些細な変化が、病気の発見、処方薬の変更、リハビリテーションの導入などにつながることがあるため、介護と医療の関係は利用者の支援において必要不可欠なものである。