乳幼児期の発達の重要性
乳幼児期は、環境からのさまざまな刺激を受けて発育発達していく時期である。乳幼児期の子どもにとって、目に見えるもの、耳から聞こえるもの、体に触れるもの、味がする、臭いがするなど、周囲にある全ての人、者、そしてそれらとの関わりが発達・発育の基盤となるのである。そのため、乳幼児期に不適切な環境にさらされることで発達に著しい悪影響を与えることになる。
乳幼児期に影響を及ぼす環境
乳幼児期に影響を及ぼす環境として、親やきょうだいなどの家族、友達などの人的環境や、保育園、幼稚園や公園、遊具などの物的環境がある。一方、子どもが直接関わるものでなくても、子どもの発育発達に影響を及ぼす環境もある。例えば、家庭と保育園の連携や近所の人とのつながりなどもあげられる。しかしながら、子ども自身のもつ要因を加味しながら環境調整していく必要がある。
乳幼児期の発達的な障害
乳幼児期にはさまざまな発達的な障害が明らかになってくる。知的障害や感覚運動障害を伴わない発達障害の中にははっきりした症状がなく、また発見がもう少し後の年齢となる場合も少なくない。発達障害には主に以下の4つに分けることができる。
知的障害
これは、IQ70未満の場合に適用し、IQ70以上80未満を境界知能として扱うものである。
自閉症スペクトラム障害または広汎性発達障害
自閉症は、著しい社会性とコミュニケーションの障害、反復常同的行動と狭い興味・関心を主症状とする障害である。一般的に重度な知的障害を伴うものが多いと考えられているが、知的障害を伴わないものに高機能自閉症またはアスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害がある。
注意欠陥多動性障害
これは、何らかの大脳損傷が疑われるもので、注意が散漫で集中困難などの不注意、落ち着きがない多動性、自己をコントロールできない衝動性などの症状がある。
反応性愛着障害
これは、子ども被虐待によって生じた愛着関係による障害である。他者との関わりが阻害・抑制され自閉症との鑑別が難しい抑制型と、愛着が拡散し誰彼なく無差別な社交性を示すが深い愛着関係の形成が難しい脱抑制型がある。
これらの発達障害は、薬物療法や心理療法などの適切な治療教育や環境整備を行いながら、家族とともにその子どもの発達障害と立ち向かい、その子どもなりの発達的な可能性を最大限引きのばしていかなければならい。しかし、現在の児童被虐待件数のうち、半数弱が発達障害を有している。これは子どもの発達障害を受容することができず、身体的虐待,性的虐待,ネグレクト,心理的虐待などを行ってしまうことが理由とされているが、虐待者本人にとっても複雑な要因がからみあって、簡単には説明できないものが多い。 例えば、保護者側のリスク要因として、保護者自身が虐待経験を持っている、攻撃的な性格、衝動的な性格などがある。子ども側のリスク要因として、上記で述べたように何らかの発達障害を有しているなどがある。養育環境のリスク要因として、家族や同居人、住む場所が変わる、生活環境が安定しない、家庭内で、夫婦の不和やDVが起こっている。親戚や地域と関わりを持たず、孤立しているなどがある。このように、1つの要因で虐待が起こるのではなく、さまざまな要因が重なり、物事を適切に理解が困難な障害児に虐待を行うされている。
虐待を受けた子どもの特徴
このような虐待を受けた子どもは非常に低い自己評価が表れ、主として以下の3つのような症状が現れる。
虚言癖
これは、どうしても嘘をついてしまうことである。虚栄心や自惚れから、自分を実際よりも大きく見せようと、嘘の自慢話をするものとされている。虐待された子どもは幼いころから虐待の事実を隠そうとして周囲に嘘をついて育つケースが多く、嘘をつくということが日常的なものとなってしまうのである。
自傷癖
これは、自分を自分で傷つける行為をおこなうことである。自傷してしまう子どもは心に大きすぎる傷を負ったために体面上での「痛み」を感じられなくなっているのが特徴である。
感情制止
これは、全てを保護者の為に行動して育ったために自分の心を無くしてしまうことである。嬉しい、悲しい、楽しい、好き、嫌い、そういった感情が完全に欠如しており、どうすれば親が喜ぶのか、どうすれば怒られなくて済むのか、それだけを考えて育った子どもは自分の喜びや自分の悲しみ=親の喜び、親の悲しみという考えになってしまうのである。
虐待経験を有する子どもの支援
このような発達障害や虐待における症状を有している子どもに対する支援として、ムーブメント教育がある。
ムーブメント教育
乳幼児期からの運動発達に不可欠な、感覚運動を中心とする遊びからなる支援方法であり、子どもが体を動かしたくなる、心がわくわくするような遊び環境をさまざまな遊具、お院学、人を用いて提供し、一人一人の発達を総合的に支援していくものである。 欧米では1970年代の初頭から急激に発展し、乳幼児から成人に至るまで、障害や疾病の有無にかかわらず、対象者のニーズに応じて保育や幼児教育、体育、保健、特別支援教育の領域で実践されてきた。わが国では小林芳文によってこの教育方法が紹介され実践されている。米国におけるムーブメント教育のパイオニアの一人であるフロスティッグは「ムーブメントは、感覚・運動の諸技能や自己意識の発達促進等全体的発達と、究極的には生命および人間の尊厳を前提として健康と幸福感を高めることを目標としている」と述べており、ムーブメントの専門家の大半が、ムーブメントの目標とムーブメントを用いる意義としてほぼ同様の解釈を行っている。 一方、発達障害児や被虐待児に対するムーブメントの実践方法においては、近年かなり多様性を増している。例えば、実践にダンスの要素を取り入れたものや、音楽を中心としたムーブメント、プールでのムーブメント、さまざまな遊具を取り入れたムーブメント、応用体育としてのムーブメント、人の手や声を活用し、精神を投入して行うムーブメントなどがあり、それらの特徴はさまざまである。 乳幼児期に行うムーブメントでは、上下、左右、垂直方向や身近にある環境を利用して子どもが「楽しい」「もっと遊びたい」といった「快」や「喜び」の感情を経験できる運動遊びが中心となっている。遊びの内容も子どもの発達段階や発達ニーズに応じて設定し、発達上の変化に応じて内容も発展させていくことができるのである。
まとめ
自閉症などの発達障害を持つ子どもは、人と関わったり、友達と一緒に遊んだりすることに困難を有することが特徴といわれているが、決して嫌いではあるわけではない。上記のようなムーブメントを経験することで、人々と関わりたくなり、将来の自立へとつながる教育的支援の第一歩となるのである。