1.ボランティアの範囲
近年、わが国におけるボランティア活動が大きな活躍を見せている。このボランティアの活動範囲は広く、以前のような福祉だけではなく、教育や医療、環境、国際協力など幅広い分野に及んでいる。また、参加層をみても、若年層だけでなく、少しずつ高齢者層や企業人も増加しつつある。
2.日本におけるボランティアの意味と歴史
日本におけるボランティアとは、自分の意思で自発的に行う社会参加活動のことをいう。これは、他人から強制されたり、義務とするのではなく、個人の自由意志で行う活動を意味している。そのため、ボランティアをしようと思うとき、自分ができること、やりやすいことから始めることができる。特別な知識や技術を身につけていなくても、今持っている趣味や仕事、好きなことを活かせるのである。
日本においてボランティアという言葉が紹介されたのは、明治後期または大正期であると言われている。しかし長い間、ごく一部の専門家が知るのみで、一般にはなじみのない物であった。一般に人々に普及していったのは戦後、それも1970年代以降のことである。そのため、ボランティアは長い年月をかけて認知されていったのである。戦前では、ボランティア活動の原点として以下の2つがあげられる。1つ目は、石井十次の岡山孤児院、留岡幸助の家庭学校に代表される民間社会事業が生まれたことである。2つ目は、セツルメントである。日本で初めてのセツルメントは1897年に片岡潜が東京に設立したキングスレー館であると言われている。また関東大震災の翌年には帝国セツルメントが設立され、学生セツルメントが活発に展開されていた。しかし、日に日に戦争の色が濃くなっていくにつれ、帝国セツルメントは閉鎖され、民間社会事業も全て戦争遂行の目的の中に吸収されていった。戦後の復興期には、浮浪児の保護や青少年の非行防止等の有志によってボランティア活動が展開されていった。その後、共同募金運動、赤十字奉仕団が始まり、組織型の活動の中でもボランティアが活躍をしていった。また、BBS運動やVYS運動の発足、学生セツルメントの復活など、青年層によるボランティアが盛り上がりを見せた。その後、1960年代以降では、高度経済成長政策のもと経済が著しく発展した半面、国民の所得格差の拡大、生活環境破壊、地域社会や家族機能の解体等が進行した。特に産業公害問題は深刻で、全国各地で改善を求める市民運動が起こった。このような状況の中、それまで未組織で行われていた個人グループの活動も横のつながりをもつ動きが見られ、1961年には学生ボランティア会議を開催し、翌年には日本病院ボランティア協会が設立された。また、ボランティア活動推進のための機関・団体がいくつか生まれた。まず、徳島や大分の社会福祉協議会に善意銀行が設立された。このころは、まだ一般市民にボランティアという言葉が普及しておらず、そのイメージも善意による活動というものであった。そのため、この時代ではまだまだ一般市民のボランティアに対する認識、関心は低かった。1970年代では、障害者グループの運動が、善意ではあるが、社会性や人権意識に乏しいボランティア活動を強く非難し、60年代に起こった市民運動の問題提起を受けて、ボランティアやボランティア推進団体の中で、改めて従来の善意的ある善意の活動のイメージを払拭し、市民運動の理念ともつながるようなボランティア活動像を確認する動きが出てきた。すなわち人権の擁護や自治の精神を重視する社会性をもった活動であると認識されるようになったのである。また、この時期から政府によるコミュニティ政策が本格化されることとなる。戦後続いてきたボランティア活動に対する否定的な考え方は崩れ、以後、政府による積極的な関与が拡大していくこととなった。1980年代に入ると、一般市民のボランティア活動への関心は大きく広がっていった。これは、政府によるボランティアへの関与が大きいが、何よりも市民自身の高齢社会に対する問題意識が大きな原動力となった。特に福祉分野では、施設福祉から在宅福祉への転換が図られ、それに伴って在宅ボランティアの必要性が強調されるようになったのも要因の1つである。1990年代以降では、企業の社会貢献活動が進められ、以前よりも体系的、組織的にボランティアが推進されるようになった。そして、1995年に起こった阪神淡路大震災では、多くのボランティアや団体などが多様な活動を展開し、わが国においてボランティア活動がいかに重要であるか再認識させられた。このように時代の変化とともにボランティアは市民にとって身近な存在となっていったのである。
3.NPO法人の活動
上記の説明でもあるように阪神淡路大震災では多くのボランティアが即時性、柔軟性をもって被災者救援をおこなったことから、民間ではボランティアの重要性が重視されていった。それを踏まえ、民間での社会に貢献する活動を推進するためにNPO法が施行された。NPO法の意義は、ボランティア団体などの非営利の団体の存在意義を社会的に認知させるだけでなく、草の根の民間団体にも法人格習得の道を開き、各種の公的補助、助成を受けやすい状況を確立したのである。つまり、営利を目的としない活動を行うNPOが地域社会において、社会福祉サービスの担い手、供給主体として明確に位置づけられることになり、地域社会におけるさまざまな生活課題を対象として、より発展的に活動を行うことができるようになったのである。このように、自分たちのためではなく、助けを必要としている人々のための存在ということから、私たちのまわりで生じたさまざまな生活課題を身近な視点で解決していくことができるのである。
数あるNPOの中に福祉NPOという団体がある。これは、介護系、保育、子育て支援系、障害系など、社会福祉サービスとして、地域社会が抱えるさまざまな福祉課題を解決するために日々活動している。主な活動内容は、誰もが安心して生活できる地域づくり、つまり福祉コミュニティ形成、福祉社会の創造を目指すものである。福祉NPOは生活の中から自発的に形成されていく組織であり、他者を認め合い、自らもサービスの利用者となり得る存在であると自覚し、地域社会における諸問題を解決しようという市民によって生み出されたものである。それは、福祉サービス供給主体としての機能のみならず、地域福祉を支える市民の主体的参加の受け皿ともなりえる。
このような市民に身近なNPOであるが、課題はいくつか存在している。例えば、NPOの組織基盤の確立や自立した運営、組織経営の視点を強化や、地域社会における新しい福祉ニーズの掘り起こし、サービスの構築、情報発信などである。これらを少しずつ乗り越えることで、NPOの利点である柔軟性と臨機応変さ、そして独自性と当事者性を活かした、きめ細かい対応をすることができるのである。