社会調査とは
社会調査は、調査対象者の数や分析されるデータが数値なのか文字なのかというようなデータ形式を問わず、社会事象を「認識」し、それを「知識」として得るために必要となる社会科学の方法として位置付けられている。
つまり、社会調査は社会事象を「認識」するための方法としての性質を有しているものである。
社会調査の定義
社会調査の定義やその意義については多くの文献において述べられれている。例えば、原・海野は社会調査について「社会調査とは、一定の社会または社会集団における社会事象に関するデータを、主として現地調査によって直接収集し、処理し、分析する過程であると定義することができる。そして、これにその全過程が客観的方法によって貫かれているという条件ができる、ぜひともつけ加えられなければならない」と述べている。
岩永は「社会調査とはさしあたり一定の社会集団に生じる諸事象を定量的または定性的に認識するプロセスであると定義することができる」と述べている。これらの定義からも明らかなように社会調査とは、客観的な方法によって社会事象に関するデータを現地調査によって収集、処理、記述および分析する過程を通して社会事象を定量的または定性的に認識するために行われものであるということができ、そのプロセス自体も含めて社会調査として理解する必要があると言える。
社会調査といわしめる要件
私たちは日常生活のなかで見に行ってくる、様子を聞いてみる、この間の経緯を記録しておいたなど、ことさら「調査」といわないまでも、それに近いことを考えることがある。小学校の社会科などで地元の商店街調べがあったように、そうした素朴な「見る」「聞く」「書く」に由来する社会調査がそのレベルにとどまることなく調査票調査対象の実態把握の試みとして独自の意義を持ち得るのは、少なくとも以下の2つの要件が満たされているからである。
手続きの合理的な可視化
社会調査の実施は、一連の調査手続き、すなわち、調査テーマ設定、調査対象選定、調査項目作成、データ収集・分析、調査結果公表など1つひとつの過程で生じる「なぜ?」に対して答えていくことと同じである。そして、そうした「なぜ?」への答えは、目に見える、誰もが合理的にトレースできるものでなければならない。そのため、調査主体の都合や事情、好き嫌いや常識では答えにならないのである。
情報の非対称性の低減
この要件は、社会調査に不可欠な2つのポジションである調査主体と調査対象との間には、各々が有する情報、つまり知識や経験・視点の違いといった情報の非対称性が前提とされる。社会調査では、調査主体が自分の有する情報と調査対象が有する情報と突き合わせ、その確認・修正・変更を行うことを通じて、この情報の非対称性を低減させることができる。
調査方法
上記では、社会調査が合理的に可視化された手続きに基づき、調査対象の実態を「発見する」「確かめる」「説明する」ことを通じて、調査主体と調査対象の間の情報の非対称性の低減を可能にするとした。「発見する」「確かめる」を行っていくため、社会調査で用いられる調査法は、その形式から以下の2つに大別される。
量的調査
量的調査とは、質問紙などを用いて情報を集め、統計的に分析する社会調査である。ある程度多くの人々に対して調査を行い、その回答の分布を調べるものである。また、量的調査は統計的な分析を行うことで、社会全体についての広範で偏りのない知識を得ることができる。
量的調査のメリットは以下の4つがある。
①同じ質問文についてあらかじめ提示されている選択肢の中から選ぶので、勘違いなどがない限り、時代などを超えて比較することができる。
②多数の対象者に対して安い費用で調査ができる。
③統計を用いて客観的に把握できること。
④サンプリングが正しければ、調査結果から全体の推定ができる。
一方、デメリットとしては、以下の2つがある。
①画一化した質問のために状況・時代に応じた臨機応変な質問ができず、それゆえに全体関連的な質問ができないこと。
②あらかじめ回答の選択肢が固定されており、自由に回答ができないので、被調査者における行為や事象の深層にアプローチすることが難しい。
既存統計資料の分析
既存統計資料の分析とは、官公庁、国際機関、研究調査機関などがすでに調査して公開している結果を、そのままあるいは二次的に加工して利用し、比較検討する方法である。加工方法としては、横断的比較と縦断的比較、あるいは現在から未来に向かって行う調査がある。なお、現在では、入力された素のデータそのものが公開されることもあり、公開された数値を用いるだけでなく、調査者が自らの視点で再分析できるケースも増えている。
調査票調査
調査票調査とは、調査目的に沿って構成された質問項目および回答選択肢を印刷した用紙のことで調査票と呼び、それを用いた調査のことを調査票調査と呼ぶ。調査票調査で最も重要な点は、調査票を利用することで多数の被調査者に対して同一の質問を行い、かつ定型的な回答を得ることができるという点である。その一方、被調査者はあらかじめ用意された質問の中でしか回答できないので、調査結果は表層的な把握になるという欠点を有している。
質的調査
質的調査とは、少数の事例についての観察あるいは対象者との会話、さらに記述された文章などから、数量的に把握できないデータを集め、分析する社会調査である。質的調査は、一人ひとりの行動や考え、あるいは1つひとつの現象における変化や状況を詳細に分析することで、具体的な因果関係および変化の過程などの発見が期待できる。また、先行研究が少なく、現象についての説明変数がよくわかっていないときに用いられることもある。
質的調査のメリットとしては、以下の3つがある。
①行為や事象の深層まで理解することができること。
②事象を多元的・総合的に把握できること。
③変化のプロセスと因果を動態的に把握できることなどがあげられる。
一方、デメリットとしては、以下の3つがある。
①調査結果が個別的で偏っていること。
②調査結果および調査の成否が調査者の能力・性格に左右されること。
③反復して検証することが困難なこと。
典型的な方法には以下のような方法がある。
聞き取り調査
聞き取り調査とは、少数の調査対象者に対して簡単な質問項目のメモに従って質問を行い、回答者は不定刑な表現で自由に回答していく。そして、それらの回答を記録していく方法。
参与観察
参与観察とは、調査対象となる集団の中に調査対象が実際に入り、集団を内部から観察し、当事者の立場から行動や対話を記録する方法。
ドキュメント分析
ドキュメント分析とは、手紙、日記、自伝、などの記録を収集し、それらのデータを分析する方法である。その他にも内容が似ているものをグルーピングするKJ法、データからカテゴリーを抽出して、カテゴリー同士の関係性から直接的に理論を導こうとする「グラウンデッド・セオリー・アプローチ」などがある。
このような両者の長所と短所をよく理解した上で、実際の調査ではどちらが優れているかのかを考えるのではなく、お互いの欠点を補うものと捉えることが重要である。